2013年 08月 20日

秋が立つと

ある集まりに行く、するとそこにいてもいいはずの人の姿がなくて
いないことを強く感じさせられる、そういうときがある。

英詩によく使われる単語には「困りもの」がいくつかあるのだが、
「いないこと」を意味する「absence」はその代表だ。
どうにも訳しにくい。

詩を訳す際には出来るだけ漢語ではなく、やまとことばにしたいと思っている。
コンサートのパンフレットでも、CDのブックレットでも
一読で全体の意味の流れがわかって、かつ、声に出した際に滑らかでありたい。
もちろん、謎のような詩はそのままにするしかないし、
わかりやすくすることをよしとしない曲も多々ある。

この「absence」、出てくるたびに、煮詰まってしまう。
直訳では「不在」だけれど、その意味をやまとことばにして行の中に溶かす作業が
私にはとても難しい。

擬人化されたスタイルの中で歌うことには、ずいぶんと慣れた。
詩の中ではよく「悲しみ」も「涙」も人形<ひとがた>をとっている。
「不在」もそう。

訳すたびに格闘しているこの単語。
この夏、ある人の形をして、静かに存在していた。

by hatano-mutsumi | 2013-08-20 22:30 | エッセイ


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